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東京高等裁判所 昭和60年(ネ)865号 判決 1987年1月28日

第一一五三号事件控訴人・

第八六五号事件被控訴人第一審原告

尾上軍次

右訴訟代理人弁護士

山田尚典

松井宏之

第八六五号事件控訴人・

第一一五三号事件被控訴人第一審被告

北辰商品株式会社

右代表者代表取締役

上田明

右訴訟代理人弁護士

西田信義

山元浩

主文

一  第一審被告の控訴に基づき、原判決主文一項を次のとおり変更する。

第一審被告は、第一審原告に対し、金一七八七万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年五月一五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第一審原告のその余の請求を棄却する。

二  第一審原告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一一五三号事件の控訴により生じた分は第一審原告の負担とし、第八六五号事件については第一、二審を通じて訴訟費用を二分し、その一を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告の負担とする。

四  この判決の第一審原告勝訴部分は、仮に執行することが出来る。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告

(第一一五三号事件)

1 原判決中第一次及び第二次請求を棄却した部分を取消し、第三次請求については原判決を次の4のとおり変更する。

2 (第一次請求)

第一審被告は、第一審原告に対し、金五四三九万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年九月一七日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

3 (第二次請求)

第一審被告は、第一審原告に対し、金四七八一万六〇〇〇円を支払え。

4 (第三次請求)

第一審被告は、第一審原告に対し、金三七四五万円及びこれに対する昭和五五年五月一五日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

5 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言

(第八六五号事件)

控訴棄却の判決

二  第一審被告

(第八六五号事件)

1 原判決中第一審被告敗訴部分を取消す。

2 第一審原告の請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

との判決

(第一一五三号事件)

控訴棄却の判決

第二  当事者の主張

一  第一審原告の請求原因

(第一次請求)

1 第一審被告は、商品先物取引等を業とする会社であり、東京砂糖取引所等における商品取引員である。訴外吉田輝夫(以下、吉田支店長という。)は、昭和五五年当時第一審被告の横浜支店長であり、商法四二条一項、三八条により同支店の営業に関する一切の代理権を有するものとみなされ、また、商品取引所法に定める第一審被告の登録外務員であつた。

2(一) 第一審原告は、第一審被告に委託して次の3項のとおり東京砂糖取引所における粗糖の先物取引をしたが、これについて、昭和五五年五月一四日、次のような経過で、金四七八一万六〇〇〇円を右取引の委託証拠金として第一審被告に預託した。

(二) すなわち、第一審原告は、(イ)昭和五五年二月一二日、当時第一審被告横浜支店の係長で登録外務員であつた訴外吉田定人(以下、吉田係長という。)から「野村某という客が注文した商品の委託証拠金が入らないが、既に野村の取引で金一三〇万円の利益が出ているので、第一審原告が金八〇〇万円の右委託証拠金を肩代りしてくれれば右利益を第一審原告に渡す。」旨の申込みを受けた。そこで、第一審原告は、右申込みを承諾し、同日、吉田係長に金八〇〇万円を交付し、数日後金一三〇万円の利益金を受領した。その後も、第一審原告は、吉田支店長及び吉田係長らの同様の趣旨の申込みを受け、その都度これを承諾したので、(ロ)同年二月一九日に金六五〇万円を交付し、これによる利益として金四五万円を受領し、(ハ)同年同月二六日に金四六〇万円を交付し(その利益金は金一一五万円であるが、支払いを受けていない。)、(ニ)同年三月一二日に金一一七五万円を交付し(その利益金は金五〇〇万円であるが、支払いを受けていない。)、(ホ)同年四月二四日に金四〇〇万円を交付した(その利益金は金八一万六〇〇〇円であるが、支払いを受けていない。)。右(イ)ないし(ホ)の肩代り証拠金は合計金三四八五万円、未払利益金は金六九六万六〇〇〇円であり、合計金四一八一万六〇〇〇円となるところ、第一審原告は、吉田支店長の依頼によりこれを第一審被告に預託していたが、(ヘ)右預託金を利用することにより更に同年五月初旬に金五四〇万円の利益が生じ、第一審原告は同年同月七日又は八日に内金二〇〇万円を受領したので、右利益金の残金三四〇万円を前記金四一八一万六〇〇〇円に加算すると、第一審原告が第一審被告に預託する金員は金四五二一万六〇〇〇円となつた。更に、(ト)第一審原告は、(イ)と同様の趣旨で、同年五月一五日に金二六〇万円を交付したので、これと(ヘ)の金四五二一万六〇〇〇円の合計は金四七八一万六〇〇〇円となつた。したがつて、第一審被告は、第一審原告に対し右金四七八一万六〇〇〇円の返還義務を負うに至つたので、第一審原告と吉田支店長は、同年五月一四日、その返還に代えて、同額を次項の取引の委託証拠金として第一審原告が第一審被告に預託したこととする旨合意したものである。

3(一) 第一審原告は、昭和五五年五月一四日から同年六月四日までの間に、吉田支店長に別紙取引一覧表記載のとおり六回の売買取引を委託し、右取引の結果合計金六五八万円の利益を得た。

(二) 仮に第一審被告が右委託を実行していないとしても、第一審被告は、第一審原告に対し、取引委託契約不履行により右利益相当額の損害義務を負う。

4 第一審原告は、昭和五五年九月一〇日到達した書面をもつて、第一審被告に対し、前記委託証拠金及び利益金の合計金五四三九万六〇〇〇円を同書面到達後六日以内に支払うよう催告した。

よつて、第一審原告は、第一審被告に対し、右金五四三九万六〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年九月一七日から支払いずみまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

(第二次請求)

5 仮に第一次請求が理由がないとしても、吉田支店長は、昭和五五年五月一四日、第一審被告を代理して、第一審原告に対し、前記2項の金四七八一万六〇〇〇円を返還する旨約束し、或いは、第一審原告から現金で右金四七八一万六〇〇〇円の預託を受け、その返還を約束した。

よつて、第一審原告は、第一審被告に対し、右返還契約に基づき、金四七八一万六〇〇〇円を支払うよう求める。

(第三次請求)

6 仮に以上の請求が理由がないとしても、吉田支店長及び吉田係長は、前記2項のように述べて、第一審原告から、委託証拠金の肩代りの名目で同項記載のとおり合計金三七四五万円の交付を受けたが、真実は肩代りすべき取引などはないのに、右両名は共謀のうえ、第一審原告から金員を騙取しようと企て、右のように虚偽の事実を述べて第一審原告を欺罔し、その旨誤信した第一審原告から、右金員を騙取したものであり、その結果、第一審原告は、同額の損害を被つた。

7 吉田支店長及び吉田係長は、第一審被告の被用者であり、前項の不法行為は、第一審被告の事業の執行につきなされたものである。

よつて、第一審原告は、第一審被告に対し、民法七〇九条、七一五条に基づき、前記損害金三七四五万円及びこれに対する不法行為後の昭和五五年五月一五日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する第一審被告の答弁

1  請求原因1項は認める。

2  同2項(一)、(二)は否認する。但し、吉田支店長が、昭和五五年二月一二日吉田係長に指示して、第一審原告に対し、第一審原告主張の内容のことを述べさせ(このような委託証拠金未納の建玉は、テッポウ玉ともいわれる。)委託証拠金の肩代りに供する金員を受領したことは認めるが、その金額は金六五〇万円である。それ以後も、吉田支店長は、第一審原告から、金七五〇万円、金一二〇〇万円、金二六〇万円を受領しているが、これらのうち一、二回はテッポウ玉の委託証拠金肩代りとして受領したものがあると思われるものの(但し、最初のときと異なり、具体的なテッポウ玉の内容は説明せず、テッポウ玉が出た場合に用いるものとして予め運用利益を二割ないし三割と約束して受領したものであり、実質的には、吉田支店長と第一審原告間の消費貸借である。)、その余は、吉田支店長が他の顧客の関係で有しているいわゆる委され玉を利用し、いわゆるバイカイとして売・買双方の玉を同時に建て、利益が出た方を第一審原告が取つて吉田支店長と利益を山分けし、損失が出た方を委され玉の顧客に振り当てるという取引をするための資金に供するものとして受領したものである。このように、吉田支店長らに対する金銭の交付は、いずれも第一審被告の業務とは全く無関係になされたものであつて、吉田支店長が第一審被告のためこのような趣旨の金銭を受領する権限はなく、もとよりこれらの金銭が第一審被告に現実に預託されたものでもないので、これらの金銭及び利益金と称せられる金銭をもつて他の商品取引の委託証拠金に流用する旨合意することについても、吉田支店長はそのような合意をする権限を有しなかつた。

3  同3項の事実は否認する。仮に第一審原告が吉田支店長にその主張のような取引を委託したとしても、各取引は第一審被告の自社玉として行ない、しかも相場がいわゆるストップ値段に達したときにも優先的に取引を成立させるという内容のもので、実際にはありえない取引であつて(現に第一審原告主張のような取引は実行されていない。)、吉田支店長にはそのような取引の委託を受ける権限がなかつた。

4  同4項は認める。

5  同5項は否認する。仮に第一審原告主張のような約束がなされたとしても、吉田支店長にはそのような約束をする代理権はなく、吉田支店長個人として約束したものである。

6  同6項は否認する。もつとも、吉田支店長が第一審原告から金員を騙取しようとしたことは事実であるが、第一審原告は、前記のように吉田支店長の違法な勧誘に便乗し、あるいは積極的に加担して多額の利益を得ようとしたものであつて、第一審原告主張の出捐は、騙取されたものということはできない。

7  同7項は否認する。吉田支店長は第一審原告主張のような趣旨で第一審被告のため金員を受領する権限はなかつたのであるから、吉田支店長の行為は、第一審被告の事業の執行につきなされたものではない。

三  第一審被告の抗弁

1  前記のように、吉田支店長には、第一次請求原因のような委託証拠金受領の合意をし、あるいは取引委託を受け、または第二次請求原因のように合意をする権限がなかつたが、仮にそうでないとしても、吉田支店長は、自己または第三者のために権限を濫用して右各合意及び受託をしたものであり、第一審原告は、そのことを知り、または容易に知ることができた。したがつて、民法九三条但書、商法四二条二項、商品取引所法九一条の二第六項但書により、第一審被告には、右各合意及び受託の効力が及ばないので、第一次及び第二次請求は失当である。

2  第一次請求原因の委託証拠金受領の合意は、前記のように違法取引のために出捐した金員及び右違法取引による利益と称されるものを委託証拠金とする旨合意したものであり、同請求原因の取引委託も自社玉を用いストップ値段の場合にも有利に取扱われ第一審原告に膨大な利益をもたらす可能性のあるもので違法である。また、第二次請求原因の合意も、第一次請求原因で委託証拠金受領の合意対象となつたのと同じ違法取引資金及び利益金についてなされたものである。したがつて、民法七〇八条により、第一審原告は、第一審被告に対し、第一次請求及び第二次請求をすることが許されない。

3  第三次請求については、吉田支店長は、職務権限を濫用し自己または第三者のために第一審原告から前記のようにテッポウ玉の委託証拠金肩代り名目ないし違法バイカイ取引資金名目で金員の交付を受けたものであり、第一審原告は右権限濫用の事実を知つていたし、仮に知らなかつたとしても、右交付の趣旨のほか、第一審原告は昭和四四年ころ一年間先物取引をした経験を有し、右交付当時にも第一審被告に委託して別に正規の先物取引をしていた熟達者であること、右正規取引には第一審被告から取引報告書、残高通知書等が送付されていたのに、第三次請求原因の金員交付、取引内容についてはこれらの書類が送付されず、正規取引について送付された書類にも何ら記載がなされていなかつた等の事情からすると、第一審原告には、右知らないことについて重大な過失があつたというべきであり、このような場合には、第一審被告は使用者責任を負担しないというべきである。

4  仮に第一審被告において第三次請求の使用者責任を負うとしても、第一審原告には、吉田支店長の詐言を軽信し、商品取引の常識からして到底ありえない形態の取引に応じた点において過失があるので、損害額の算定につき第一審原告の右過失が斟酌されるべきである。

四  抗弁に対する第一審原告の抗弁

1  抗弁1項は否認する。なお、テッポウ玉の委託証拠金の肩代りは現実には登録外務員の裁量で第一審被告の業務として行なわれているところであり、これを違法、異常とすべき理由はない。また、第一次請求原因の委託にかかる取引が自社玉扱いでなされるべき旨合意されていたことは事実であるが、ここにいう自社玉とは、節税のため第一審原告の名を用いず第一審被告名義を用いて取引することを説明するため吉田支店長が勝手に用いた言葉にすぎず、委託にかかる取引自体は、第一審原告の名を出さないという点を除けば、通常の取引と何ら変るところがない。

2  同2項は否認する。前記のとおり、テッポウ玉取引及び本件の自社玉扱い取引は、何ら違法なものではない。

3  同3、4項は否認する。仮に吉田支店長が権限を濫用したものであつたとしても、第一審原告は、支店長の地位にある登録外務員である吉田支店長を信頼し、その勧誘に応じたものであり、しかも金員交付の都度正規用紙による預り証の交付を受けていたのであるから、吉田支店長を信頼したことには何ら過失はない。仮に多少の過失があつたとしても、第一審被告は、被用者たる吉田支店長の故意による不法行為について使用者責任を負うべき場合であるから、このような場合には第一審原告の損害について過失相殺することは許されない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1項の事実及び同2項(二)の事実中吉田係長が第一審原告主張のとおり係長で登録外務員であつたことは、当事者間に争いがない。

二第一次請求のうち委託証拠金返還請求について

1  <証拠>によれば、第一審原告は、昭和五五年五月一六日までに、吉田支店長との間で、「第一審原告が東京砂糖取引所において売買取引をするための委託証拠金として、金四七八一万六〇〇〇円を第一審被告に預託し第一審被告はその預託を受けた。」旨合意し、吉田支店長は、同日、第一審原告に対し、第一審被告横浜支店発行名義の同額の委託証拠金預り証を交付したこと、しかし、委託証拠金は、右合意の際現実に交付されたものではなく、第一審原告がそれまでに第一審被告に対し右同額の金銭債権(以下、従前の債権という。)を有していたものであることを前提として、これをそれ以後の前記取引所における取引の委託証拠金に流用する旨合意されたものであることを認定することができ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

2  そして、右合意に至つた経過及び従前の債権とされたものの性質をみると、<証拠>によれば、次のとおりであることを認めることができる。

(一)  第一審原告は、果物店及び貸室業を営なむものであるところ、昭和五五年二月から同年七月まで第一審被告の横浜支店に委託して東京穀物商品取引所、東京ゴム取引所、東京砂糖取引所における商品先物取引をしたが、右取引は、結局第一審原告の損失となつたものの、委託関係には何ら瑕疵のない正規の取引である。

(二)  吉田支店長及び吉田係長(以下、吉田支店長らという。)は、右正規取引を通じて知るようになつた第一審原告から金員を騙取しようと企てた。そこで、吉田係長は、吉田支店長の指示を受けて、同年二月一二日、第一審原告に対し、「野村という顧客の注文による取引をし現在金一三〇万円の利益が出ているが、野村が金八〇〇万円の委託証拠金を預託しないので流れてしまう。こういうものをテッポウ玉と称するが、第一審原告が委託証拠金を肩代りしてくれれば、第一審被告は金一三〇万円の利益を第一審原告に渡すことができる。」という趣旨の全く虚偽の事実を告げ、第一審原告にテッポウ玉の委託証拠金肩代り名目の金員を負担するようことば巧みに勧誘し、あわせて、これが事実であるかのように装つた野村という顧客の関係書類のようにみえるものを第一審原告に示した。第一審原告は、吉田係長の右のような説明を信じて、その勧誘に応ずることとし、同日、同人に対し、金八〇〇万円を交付し、その数日後、同人から、利益金として金一三〇万円を受領した。

(三)  吉田支店長らは、第一審原告に対し、右(二)の委託証拠金は二週間くらい第一審被告に預託しておく必要があると述べていたが、その期間経過前の同年同月一九日、更に、第一審原告に対し、顧客名その他の具体的な内容は告げなかつたが、同様のテッポウ玉がまた出た旨虚偽の事実を述べて勧誘し、その旨誤信した第一審原告から、委託証拠金の肩代りの名目で金六五〇万円を受領し、第一審原告は、利益として金四五万円を受取つた。

(四)  吉田支店長らは、以上の肩代り委託証拠金については、第一審原告に対し、第一審被告の正規の用紙を用いた預り証を交付していたが、これら肩代り委託証拠金を返還しないまま、同年同月二六日、第一審原告に対し、(三)と同様に具体的な内容を説明することなくテッポウ玉の肩代りを勧誘し、その用に供されるものと誤信した第一審原告は、同日、金四六〇万円を交付した。このときの利益は金一一五万円ということであつたが、右利益金の支払いはなされず、肩代り委託証拠金も返還されなかつた。代りに、第一審原告は、同日、吉田支店長から、第一審被告が第一審原告から東京ゴム取引所における取引の委託証拠金として現金二〇二五万円の預託を受けたことを証する第一審被告横浜支店発行名義の正規の用紙を用いた委託証拠金預り証の交付を受けた(右金二〇二五万円は(二)ないし(四)の肩代り委託証拠金及び(四)の利益金の合計額に一致する。)。

(五)  更に、吉田支店長は、第一審原告に対し、横浜支店で毎月二、三件のテッポウ玉が出るのでそのときに肩代り委託証拠金として使う金員を出してほしい旨虚偽の事実を述べ、同年三月一二日、その旨誤信した第一審原告から、金一一七五万円の交付を受け、同日、東京砂糖取引所における商品取引の委託証拠金として第一審被告が第一審原告から金一一七五万円の預託を受けた旨の横浜支店発行名義の正規用紙による委託証拠金預り証を交付したほか、同日、吉田支店長ら連名で、第一審原告に対し念書を差入れたが、その内容は、「金一一七五万円を預つたが、この金銭は相場の思惑に関係なく昭和五五年四月一〇日に返却する。」という趣旨のものである。

(六)  吉田支店長らは、その後も(四)の金二〇二五万円及び(五)の金一一七五万円を第一審原告に返還しようとしなかつたので、第一審原告はこれを催促していたところ、吉田支店長は、同年四月二日、(五)の金一一七五万円に金五〇〇万円を加算した金一六七五万円と(四)の金二〇二五万円を合わせた合計金三七〇〇万円について、これを第一審被告が第一審原告より、東京砂糖取引所の商品取引の委託証拠金として受領した旨の第一審被告の正規の用紙を用いた横浜支店発行名義の委託証拠金預り証を第一審原告に交付するとともに、同年同月三日、吉田支店長ら連名で、「右金三七〇〇万円は、会社の都合で、四月一〇日返却すべきところ、四月末日まで延期させてもらい、五月一日に返還する。」という趣旨を記載した念書を第一審原告に差入れた。

(七)  第一審原告は、同年四月二四日、吉田支店長から前同様にテッポウ玉があるという勧誘を受けたので、その旨誤信し、テッポウ玉委託証拠金の肩代りとして金四〇〇万円を交付した。このときの利益は金八一万六〇〇〇円ということであつたが、すぐにはその利益金の支払いは受けず、右金四〇〇万円も返還されなかつた。

(八)  吉田支店長は、同年五月初旬、第一審原告に対し、それまでに金五四〇万円の利益が出ていると報告し、そのうち金二〇〇万円を交付した。

(九)  吉田支店長は、同年五月一四日、第一審原告に対し、またテッポウ玉が出たと虚偽の事実を述べてその委託証拠金二六〇万円の肩代りを勧誘し、第一審原告はその旨誤信してこれを承諾したため、同年同月一五日、吉田支店長に対し、右金二六〇万円を交付した。

(一〇)  以上のように、吉田支店長らは、第一審原告を欺罔し、第一審被告名義で合計金三七四五万円を受領し、利益が合計金一四一一万六〇〇〇円あるものと説明していたため、現実に第一審原告に交付した利益金名目の金三七五万円を控除した合計金四七八一万六〇〇〇円について、これを第一審原告に返還しなければならないこととなつたが、吉田支店長は、その返還を引延ばすため、第一審原告に対し、「第一審被告は第一審原告のため第一審被告の建てる自社玉として粗糖の取引をしてあげられる。この取引は第一審原告の名が出ないため税金を払う必要がなく、かつ、自社玉であるためストップ値段の場合にも第一審原告のための取引を優先的に成立させることができる。」旨虚偽の事実を述べ、第一審原告に対し、前記金四七八一万六〇〇〇円を委託証拠金として右自社玉の方法による取引をすることを勧誘した。第一審原告は、これを信じて右勧誘に応ずることとし、同年五月一四日、吉田支店長との間で、前記金四七八一万六〇〇〇円を自社玉を利用した粗糖取引の委託証拠金として第一審被告に預託することを合意した。そこで、吉田支店長は、前記のように第一審被告の正規の用紙を用い、第一審被告が第一審原告より東京砂糖取引所における商品取引のための委託証拠金として金四七八一万六〇〇〇円を受領した旨の同年同月一六日付横浜支店発行名義の委託証拠金預り証を作成し、同日これを第一審原告に交付した。

(一一)  なお、吉田支店長は、同年五月一四日、第一審被告の社印を押した二通の念書を第一審原告に交付しているが、これらの内容は、ひとつが「金四七八一万六〇〇〇円を会社の純増月間につき八月上旬まで預ります。」という内容であり、他は「金四七八一万六〇〇〇円について純増月間に協力をしてくれた謝礼として、一か月金四〇〇万円を同年七月まで支払います。」という趣旨のものである。

以上のように認められる。第一審被告は、第一審原告が吉田支店長らに交付した金員の額及び利益金として第一審原告が受領した金額を争い、<証拠>中にはこの点に関する第一審被告の主張に副う部分があるが、これらの証拠は、五月一五日に授受された金員に関する部分を除くといずれも裏付けがなく、<証拠>の各預り証に記載されている金額を説明することができないので採用し難い。また、第一審被告は、二回目以後の金員交付は大部分が第一審被告主張のような趣旨でのバイカイ取引に供する資金としてなされたものであると主張し、<証拠>のうちにはこれに副う部分があるが、<証拠>に照らすとたやすく採用し難い。そのほかには、前記認定を覆えすに足る証拠はない。

3  右に認定のとおり、昭和五五年五月一四日ないし一六日になされた第一次請求原因の委託証拠金預託に関する合意は、テッポウ玉の肩代り委託証拠金返還債権及び未払い利益金債権の合計額を従前の債権とし、これを新たな委託証拠金に流用することとされたものである。そうすると、右の従前の債権が真実存在したのでなければ第一審原告主張のような委託証拠金が預託されたことにはならないので、この点を検討する。

<証拠>によれば、商品取引員が顧客から委託を受けて商品の取引をした場合に委託者が所定の委託証拠金を預託しないときがあるが、このような場合には、委託契約準則上、商品取引員は、当該取引を委託者の計算のまま維持するか、あるいは、委託者の計算においてその全部または一部を処分することができるとされており、このようにして取引を決済することがすなわちこの場合の正規の方法として許容されたものであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。特に、委託証拠金未納の取引について計算上の利益が生じている場合には、前記委託契約準則に従いこれを商品取引員において委託者の計算により処分することにより、委託者の利益を損なうことなく、商品取引員としても損害を被ることなく、取引を終了させることができるのであるから、このような場合に第三者に立替えを依頼することによつてまで委託証拠金の預託を受ける必要はないのであるし、あえて第三者に委託証拠金を立替えさせ利益をその第三者に回すというようなことをするとすれば、それは、委託者の損失において、商品取引によらずして第三者に一方的な利益を与える行為であって、商品取引の性質と仕組みに著しく背馳するから、商品取引の決済手段として許されないところというべきである。なお、<証拠>のうちには、外務員の裁量でこのような決済が現実には行なわれていたという部分があるが、<証拠>に照らすと到底採用することができない。したがつて、右のような場合になされる委託証拠金肩代りと利益の横流しに関する約束は、これを客観的にみた場合商品取引員の営業の目的たる行為に該当しないのみならず、営業のため必要な行為にも該当しないものというべきである。そうすると、吉田支店長は横浜支店の営業に関する一切の代理権を有するものとみなされることは当事者間に争いがないものの、前記認定のようなテッポウ玉の肩代り委託証拠金の交付を受け利益金の支払いを約束する行為は、営業に関する行為でなく、その代理権の範囲に属しないのであるから、これが第一審被告に対し効力を生ずる余地はないものである。なお、吉田支店長は登録外務員でもあり、吉田係長も登録外務員であつて前記のように吉田支店長と共謀し一部実行行為に関与したものであるところ、登録外務員については商品取引所法九一条の二第六項本文により、その所属する商品取引員に代わつて商品市場における売買取引の受託又は委託の勧誘に関し一切の裁判外の行為を行う権限を有するものとみなされているのであるが、前記のように吉田支店長らの肩代り委託証拠金の受領と利益金支払いの約束が客観的に第一審被告の営業に関する行為と認められない以上、吉田支店長らの右のような立場からみた権限の範囲外のことであることも多言を要しないので、この点から第一審被告に対する右約束の効果を積極に認めることもできない。

4  そうだとすると、第一審被告は、テッポウ玉肩代り委託証拠金及び約定利益金の返還ないし支払義務、すなわち従前の債務を第一審原告に対し負担しなかつたのであるから、これをもつて更に別の粗糖取引の委託証拠金に流用する旨約した吉田支店長と第一審原告間の前記預託金に関する合意は、その効力を生じえない。したがつて、第一審原告の第一次請求のうち委託証拠金返還請求部分は、理由がない。

三第一次請求のうち利益金ないし利益金相当損害金の請求について

前記のように本件委託証拠金流用に関する合意は第一審被告に対し効力を生じないものではあるが、委託証拠金は主として商品取引員が委託者に対して取得する委託契約上の債権を担保するためのものであるから、これが預託されなかつたことになるということだけでは、第一審原告主張の粗糖の取引委託及び右委託による取引の効果を主張できなくなるものではないと解するのが相当である。そこで、第一審原告の第一次請求のうち利益金ないし利益金相当損害金の支払請求について更に検討すべきところ、前記のように、第一審原告は、吉田支店長に対し、粗糖の自社玉取引を第一審原告の計算で行ない、しかもストップ値段の場合にも優先的に成立させる取引を委託したことが認められるのである。そして、第一審原告は、請求原因3項のように多数回の取引を委託した結果、合計金六五八万円の利益が生じ、または生ずべきであつたと主張するのである。

しかし、<証拠>によれば、自社玉は特別な目的のために商品取引員の計算においてする取引であつて、これを顧客の計算においてする取引に用いることは商品取引の形態としてありえないことであり、しかもストップ値段の場合に第一審原告の委託にかかる取引を優先的に成立させることも、実際には行なえないことであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はないから、そのような取引の委託を受けることは、客観的にみて既に商品取引員たる第一審被告の営業に関する行為に属しないものといわなければならず、そうすると、吉田支店長の支店長あるいは登録外務員としての前記権限に照らしても、吉田支店長には、第一審原告から右取引の委託を受ける権限を有しなかつたものである。

第一審原告は、自社玉の取引とはいつてもただ第一審原告の名を出さない取引というだけで、そのほかは通常の取引の委託と異なるものではなかつたと主張するが、前記のように第一審原告は他方で第一審被告に委託して通常の正規取引を行つていたものであり、<証拠>によれば、自社玉利用の取引といわれるものについては正規取引について履行されていた取引報告書、残高照会書等の書面の交付が全く行なわれず、かつ、第一審原告主張の取引のほとんどが実際にストップ値段の場合に成立したことになる事実が認められ、右認定に反する証拠はないこと及び前記のように昭和五五年五月一四日付の念書により通常の商品取引を行なうものとしては不可解な約束がなされていることからすれば、自社玉利用の取引委託が通常の商品取引とは異なるものであり、かつ、自社玉でありストップ値段のときの優先成約ということに目的を置いた特殊な取引委託をしたものと認めるのが相当であるから、採用することができない。したがつて、第一審原告の第一次請求のうち利益金あるいは利益金相当損害金の支払請求も、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。

四第二次請求について

第二次請求の請求原因は、吉田支店長が昭和五五年五月一四日第一審原告に対し、金四七八一万六〇〇〇円を返還する旨約したというのであるが、前記のとおり、吉田支店長は、右同日第一審原告に対し、念書を交付し、金四七八一万六〇〇〇円を同年八月上旬まで預かる旨約束し、同年五月一六日には、同額を自社玉利用の取引の委託証拠金に流用して預託を受ける旨約束したことが認められるのである。しかし、右のような合意が第一審被告に対して効力を生ずるものでないことは第一次請求について判示したところから明らかである。したがつて、第一審原告の第二次請求も、理由がない(なお、第一審原告は右金四七八一万六〇〇〇円を現実に吉田支店長に預託したとも主張し、<証拠>中にはこれに副うかの如き部分があるが、これらは前記認定に照らし採用できず、他に右主張を認めるに足る証拠はない。)。

五第三次請求について

1  前記のように、吉田支店長らは、第一審原告から合計金三七四五万円を騙取したものであるところ、第一審原告は、吉田支店長らの右不法行為により右同額の損害を被つたのであるが、利益金名下に合計金三七五万円の支払いを受けたことにより同額だけ被害が回復し、結局その残金三三七〇万円が損害として残つているというべきである。そして、吉田支店長らがいずれも第一審被告の被用者であることは、同人らがそれぞれ横浜支店の支店長及び係長であつたこと及び弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

2  そこで、吉田支店長らの不法行為が第一審被告の事業の執行につき行なわれたものであるかどうかを検討する。前記のように、吉田支店長らのテッポウ玉の肩代り委託証拠金についてした勧誘及びその受領行為は、支店長あるいは登録外務員の権限の範囲の関係でみる場合にはいずれも第一審被告の営業に関する行為であると認めることはできないのであるが、そのことから当然に右不法行為が民法七一五条の要件とする第一審被告の事業の執行についてなされたものに該当しないということになるものではなく、この点は、被用者の不法行為について使用者の責任を定める同条の法理に立脚して別途に考えるべきものである。そして、本件の場合には、第一次請求について認定した事実によれば、吉田支店長らの欺罔行為は、第一審被告が正常な営業上他の顧客に対し未納委託証拠金請求債権を有しまたはそのような状態が将来生じうるものであることを装うことによつてはじめて可能となるものであること、吉田支店長らは、第一審原告が横浜支店を通じ第一審被告と正当な取引をしている顧客であることから第一審原告を知るようになつたものであり、テッポウ玉を利用した利益獲得の勧誘は、正規取引の受託と併行して行なわれたものであること、吉田支店長らは、第一審原告に対し、正規の取引に用いられるのと同じ第一審被告の委託証拠金預り証を交付し、右各預り証の形式からすると、吉田支店長には委託証拠金預り証作成、発行の権限があると認められること、吉田支店長は、単に登録外務員であるというにとどまらず、前記のような広範な権限を有するものとみなされる支店長であること、テッポウ玉といわれる取引がある場合に委託証拠金を肩代りすることは、建玉の特殊な清算方法の如き外観を呈し、正当な取引として行ないえないものであることが一般の顧客にとつて必ずしも明らかとはいえず、特に商品取引員の支店長の立場にあるものからそのような勧誘がなされた場合には、これが正当な取引であると誤信されやすいものといえること、なお、ほとんど同様の手段により外務員が第三者を欺罔し金銭を詐取したことから訴訟事件になつた例は他にも見受けられ(名古屋地方裁判所昭和四八年八月四日判決、判例時報七二七号七〇頁参照)、このような詐欺事例は不良被用者を使用する場合にはありがちなことと認められること等の事実を指摘することができるのであつて、これらのことからすれば、吉田支店長らの前記不法行為は、外形的に第一審被告の事業の執行について行なわれたものと認められる範囲内にあるものと解するのが相当である。

3  第一審被告は、第一審原告は吉田支店長らに肩代り委託証拠金を受領する権限がないことを知つていたか、知らなかつたことについて重大な過失があるので、第一審被告は使用者責任を負わないと主張する。しかし、第一審被告が右のような事実を知つていたことを認めるに足る証拠はない(<証拠>のうちには、第一審被告の右主張に副う趣旨に理解される部分もあるが、第一審原告本人尋問の結果(原審、当審)に照らすと採用できない。)。

過失の点についてみると、第一審原告本人尋問の結果(原審、当審)によれば、第一審原告は本件発生の一〇年くらい前にも一年間くらい横浜支店を通じて商品取引をし損失を被つた経験を有するものであり、昭和五五年二月には自ら積極的に正規商品取引を再開したのであつて、商品取引には一応くわしいものであることが認められること、吉田支店長らの勧誘したテッポウ玉の取引は、利益が保証された点で極めて有利なものであり、かつ、商品取引の方法からすると異常なものであること、しかも、勧誘は一回に止まらず、三か月の間に六回に及んでいるが、右のような異常な取引がそのように頻繁に行なわれるのはいかにも不自然であるのみならず、その間肩代り委託証拠金が返還されなかつたほか利益の一部も支払われなかつたこと、正規取引とちがつて、第一審被告本社から送付されるべき取引報告書及び残高照会書が送付されず、横浜支店発行名義の預り証のほかには第一審被告の本社その他の上部機関が承知した取引であることが確認されていないこと等の事実からすると、第一審被告が吉田支店長らの勧誘を真実なものと誤信したことには相当程度の不注意があつたものといわなければならないが、前記二の2及び五の2で判示した諸事情からすると、右過失は未だ第一審被告の使用者責任を免れしめるほどに重大なものということはできない。

4 したがつて、第一審被告の前記主張は採用できないが、第一審原告の右過失は、過失相殺として第一審被告の賠償すべき損害額の算定について斟酌されるべきである。第一審原告は、使用者が被用者の故意にした不法行為について使用者責任を負う場合には過失相殺をすることは許されないと主張するが、使用者の右責任は、被用者が他人に与えた損害について、それが業務の執行について行なわれたものとの外形上認められるかぎり使用者自身についてはほとんど無過失の場合にも負担しなければならない責任であることからすれば、被用者の行為が正当な業務執行であると誤信したことについて被害者に過失があるときは、負担すべき損害の額について被用者と使用者とを別個に考え、使用者に対する関係では被害者の右過失を斟酌すべきものとするのが、損害の公平な分担を趣旨とする過失相殺の法意に合致するものというべきである。したがつて、第一審原告の前記主張は採用することができない。

そこで、過失相殺の程度について検討すると、吉田支店長らの不法行為は一連の同種の行為ではあるが、時期を異にし、前記認定のように詐言の内容も必ずしも同一ではなく、しかも、当初から肩代り委託証拠金の返還がされないまま漫然と吉田支店長らの勧誘に乗り続けた点で、その間の第一審原告の過失の程度にも差異があると認められるところ、これらの点と本件の不法行為の態様及び第一審原告の前項に判示した過失内容に鑑みると、一回目の肩代り委託証拠金が返還されるべきものとされていた前記おおむね二週間の期間内に発生した損害(一回目の金八〇〇万円及び二回目の金六五〇万円。なお、三回目の金四六〇万円交付の日はちょうど二週間の終りの日になるが、同日は一回目の肩代り委託証拠金について一応の返還期限とされていたのであるから、その返還のないまま更に漫然と右金員を交付した点で、一、二回目とは第一審原告の不注意に相当程度の差があるというべきである。)については三割を、三回目以後の損害(合計金二二九五万円)については五割を、過失相殺により減ずるのが相当である。そうすると、過失相殺後の損害額は合計金二一六二万五〇〇〇円となり、これから前記のように回復された金額である金三七五万円を控除すると、残額は金一七八七万五〇〇〇円になる。

六以上によれば、第一審原告の第一次及び第二次請求はいずれも理由がないので、これを棄却した原判決は相当であるが、第三次請求については、金一七八七万五〇〇〇円及びこれに対する最終不法行為日である昭和五五年五月一五日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める程度で理由があるので認容すべく、その余は理由がないので棄却すべく、右認定部分について仮執行の宣言を付するのが相当であるから、これを超えて第三次請求を認容した原判決は相当でない。よつて、第一審被告の控訴に基づき原判決主文一項を右のとおり変更することとし、第一審原告の控訴は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、九六条、八九条、九二条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中永司 裁判官豊島利夫 裁判官加藤英継)

別紙取引一覧表(商品は全て東京粗糖)

① 五月一四日に五〇枚分(一〇噸)を一九四円で売り、(一キログラムあたり)これを六月四日に二〇三円で買つた。

四五〇万円の損失

② 五月一五日に一五枚を二〇二円で買い、これを六月三日に二一一円で売つた。

一三五万円の利益

③ 五月一五日に三五枚を二〇二円で買い、これを六月三日に二一一円で売つた。

三一五万円の利益

④ 五月二一日に一〇〇枚を一九八円七〇銭で売り、六月四日に二〇二円で買つた。

四三〇万円の損失

⑤ 五月二二日に一〇〇枚を二〇一円六〇銭で買い、六月三日に二一一円で売つた。

九四〇万円の利益

⑥ 六月三日に五〇枚を二一一円で売り、六月四日に二〇三円で買つた。

四〇〇万円の利益

以上損益の計算結果は、九一〇万円の利益

委託手数料合計、二五二万円

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